今回は桐たんすのカビについてお話します。
先日、31年前に私が修行していた桐たんす工場で作られた桐たんすが、修理のために桐の蔵に送られて来た事はこのブログでお伝えしましたが、そのお客様のご依頼が、桐たんすに付いたカビをきれいにして欲しいと言うご要望でした。
観音開きの内側に生えたカビ
桐たんすは、置かれた環境によっては、たんす全体にカビが生えることがあります。それも、ほとんどは桐たんすの内部に生えることが多いのです。(状況がひどいと、たんすの外側(表面)にも生えます)
カビが生える原因のほとんどは「湿気」です。
湿気が多い場所に置いて長年使用してきたことや、締め切った部屋に置きっぱなしだったなど、湿度が多い中での使用がカビの原因になることが多いのです。
また、昔(20~30年ほど前)の桐たんすの仕上げ塗料にも、カビが生える原因の一つがあるように思います。
桐たんすは基本的には「との粉塗装」と言われる、粘土質の土「との粉」と「水」、そして20~30年前までは「ヤシャブシの実」(木の実。通称ヤシャと呼んでいました)を煮詰めて煎じた液体を「との粉」と「水」に混ぜて、それを刷毛で桐たんすに塗っていたのです。
この「ヤシャブシの実」の煮詰めて煎じた液体(通称ヤシャ)は、桐たんすの木目(柾目)の「目」を、際立たせる役割を果たていたのですが、木の実を煎じた液体なので、時間(日を)置くと、それ自体がカビやすいのです。
なので、その「ヤシャブシの実」を使って塗装した桐たんすは、湿気があるお部屋に置くと、よりカビやすいものとなるのです。
現在は、「ヤシャブシの実」に変わる「やまと液」という染料が開発され、カビることは少なくなりましたが、それでも湿気の多いお部屋に置き続ければ、完全ではありません。
湿気が多い状況で、桐たんす以外のたんすを使うと、たんす自体にはカビの発生は少ないものの、収納している衣類(きものなど)にカビが生えてしまいます。
しかし桐たんすは、カビを出来るだけ衣類に生えさせず、桐たんす自身にカビを受けることで、衣類をカビから守ってくれるのです。
とは言っても限界はあります。
衣装盆に生えたカビ
桐たんすでカビが多く生える場所は、観音開き扉の裏側です。
(観音開きのたんすの場合)ここは、湿気が多くこもる場所のため、扉の裏側にカビが生えるのです。
そして観音開きの中にある衣装盆。ここに着物を入れるのですが、この衣装盆の前板にもカビが多く生えます。
桐たんすの表面(扉)にも生えたカビ
また、桐たんすに掛けるカバー(油単)を掛けておくと、桐たんすの表面(全体)にも
カビは生えることが多いです。これも、油単を掛けることで湿気が中にこもってしまい、桐たんすの表面にカビが生えてしまいます。
逆に、引き出しの中や衣装盆の中には、カビが生えることは少ないですが、ひどい状況になると、過去にはカビが生える場合もありました。
引き出しの内側や衣装盆の内側にはカビは生えにくいのですが、ごく稀にですが、このような場所にもカビが生えることがあります。(桐の染みをカビと勘違いされる方も多いです)
基本的に、このような内側ではカンナが使えませんので、熱湯とアイロンの熱でカビ菌を除去した後、きれいに拭くという作業となります。
このようなカンナの使えない場所では、「カビ取り剤」などの薬品を使用するケースも有るようですが、私達の場合は、木を痛める可能性のある薬品の使用は行いません。
それでは、カビが生えてしまったらどうするか。
結論から言えば、カンナで削らなければカビは取れません。
水やお湯で洗うという方法もあるのですが、これは表面上の菌を流す程度で、中までのカビは取りきれません。
カビ菌をしっかり除去するには、カンナで何度か削り、しっかりとカビ菌を除去しなければカビ菌は無くならないと思うのが、私の長年の経験です。
今回のお客様からのご依頼の「桐たんすに付いたカビをきれいにして欲しい」のご依頼には、まずは、お湯で洗い、カビのある部分にアイロンを掛け、お湯と熱で桐たんすの塗装とカビを除去します。そうすることで、ほとんどのカビ菌は死んでしまいます。
その後、カビのあった部分を中心にカンナかけ、カビを除去していきます。
カビ菌を除去し、カンナを掛け、との粉で仕上げた観音開きの内側。 カビは全くありません。
そして、その後は通常のその他の傷んだ部分の修理を施し、お客様のご希望により、「との粉塗装」や「天然オイル塗装」を施し、金具を付け変え、完成となります。
このようにカビが生えた桐たんすをきれいにするには、何回かの工程を踏み、カビ菌を除去した上で、カンナを掛けてカビ菌を完全に除去するという工程が必要になります。
また、この工程が中途半端ですと、カビ菌が残っていたり、修理した後でも湿気の多い場所に再び置くなどした場合には、カビが再発する可能性もあります。
カビ菌を除去し、カンナで削った後、との粉で仕上げた衣装盆。きれいに仕上がりました。
桐たんすに生えたカビが、大切なお着物や衣類に移らない前に、しっかりとしたケアをしていただきたいと思います。
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